毛猛山塊 足沢山、太郎助山、百字が岳、中岳、毛猛山、桧岳 2010年4月30日〜5月1日

所要時間
4/30 4:50 駐車スペース−−5:12 542m峰−−5:49 762m峰−−7:16 足沢山 7:28−−9:06 太郎助山 9:32−−9:56 百字が岳 10:11−−10:27 中岳−−10:50 毛猛山 11:00−−11:23 中岳−−11:50 百字が岳(幕営)

5/1 7:54 百字が岳−−9:02 桧岳 9:05−−10:13 百字が岳 10:25−−10:46 太郎助山−11:54 足沢山 12:11−−13:04 762m峰−−13:19 542m峰−−13:27 駐車スペース

概要
 2010年は4月の気温が低くて雪解けが例年より遅く残雪が豊富で例年よりも藪漕ぎが少なかった模様。来年以降はもっと藪があると考えた方がいい。藪の種類は笹は少なく潅木が大半で漕ぐのに苦労するが、おそらく例年藪が出ている区間のほとんどには明瞭な踏跡があると思われる。荷物を少なくして藪の引っ掛かりを抑え、踏跡を正確に辿るのが疲労を抑えるコツとなろう。その時の雪質にも寄るだろうが、大型連休に毛猛山に登るだけなら少なくともピッケルは不要、アイゼンは標高が低い場所での早朝の雪が締まった時間帯のみあると便利だが、稜線に出てからの時間帯は雪の締まりは無くなっているはずでアイゼンは不要と思われる。ただし、リスクはあるのでアイゼンの所持を推奨する。桧岳を目指す場合、山頂直下の登りのみ急斜面で安全を考えるとピッケル必須(落ちればタダでは済まない場所)。


 新潟/福島県境の山はあまり多く登っていない。登ったことがあるのは未丈ヶ岳、越後駒、浅草岳、御神楽岳、狢ヶ森山、それに飯豊の三国山くらいだろう。県境には興味の尽きない薮山が多いが、中でも毛猛山は私にとって別格だった。なんといっても名前が毛「猛」山である。木が無いことを意味する毛「無」山は日本全国たくさんあると思うが、その逆の名前の山はここしかないだろう。これは薮屋にとって登ってみたくなるのも当然だ。ここに登った記録は20年近く前にkumo氏が自前の無線掲示板で見たのが初めてで、当時はインターネットは影も形もなく毛猛山の記録なんて目にすることはまず無かった時代である。当然、kumo氏は何も情報が無い中、地形図から独自にコースを組んで挑戦して成功したわけであり、当時から「怪人」の名を欲しいままにする実力であった。

 一方の私は山屋としては駆け出しの頃で薮山はおろか残雪期の山もやっていない頃で、毛猛山は遠い存在であったが憧れの山としてずっと心の中にあった。残雪の山を何年か経験して毛猛山に挑戦することも可能だろうと思えるようになったが、標高が高い山を優先していたため気にかけながらも後回しになってきた。しかし、そろそろ標高が高い山もネタ切れ気味で標高が低くても面白そうな薮山を残雪期に回せるようになり、今年はいよいよ毛猛山にアタックすることにした。

 kumo氏の記録は古くてどこから登ったのか覚えていないが、最後は前毛猛山を越えて六十里越に下っているのだけは覚えており、登った尾根には途中まで踏跡があったと言う。これを使えれば大幅に薮漕ぎを省力化できる。時代は便利になったものでネットで検索すればたくさん情報を引っ張り出せるようになり、毛猛山で検索をかけると何件もヒットして今は盛んに登られていることが分かった。たぶんネット時代が来なかったらこんなことにはならなかっただろう。ちょうど栃木の大佐飛山がネットの広がりでたくさん登られるようになったのと事情が似ている。しかしいくつか記事を読んだが踏跡の入口がどこなのか不明確だった。まあ、標高が低いところは薮は無いだろうから適当に斜面を登って、踏み跡があるという尾根に登りつけばいいので大きな問題はないが。地形図では毛猛沢沿いに破線が桧岳まで書かれているが、ここを辿った記録は発見できなかったので廃道化しているのだろう。

 今回は桧岳をオプションとして付け加えようと考えた。こちらはどれくらい登られているのか不明だが(こちらはネット検索はかけなかった)、毛猛山と比較すれば格段に少ないだろう。どれくらい険しい尾根なのか分からないが、地形図に破線があるくらいだから全く登られていないなんてことはないだろう。ネットの記録によると毛猛山だけなら日帰りで行けそうだが、桧岳を含めると相当困難だろう。それに毛猛山は連休初日に登る予定であり、最初に体力を完全に使いきっては充電に日数がかかり、その後の山行はしばらく軽い山しか行けなくなってしまいせっかくの連休がもったいないとの考えもあった。荷物は重くなるが百字が岳で幕営して毛猛、桧と振り分けて登るのが効率がいいだろう。

 うまい具合に新潟の藪山仲間が数日前に足沢山から毛猛山、未丈が岳経由で銀山平まで縦走し、国道の開通時期、途中の藪の程度、ピッケルが必要な箇所等の簡単ではあるが重要な情報を知らせてくれた。国道は入広瀬から歩くのを覚悟していたが28日から開通とのことで尾根取り付まで安心して車で入れることになって大いに安心する。今年は残雪はかなり多めでほとんど藪が出ていなかったというのもラッキーな情報だ。ネットの記録では大型連休の頃にはかなり藪が出てしまって苦労している記録が多く、私の計画も国道が開通していなくても連休の頭で雪解けができるだけ進まないうちにアタックする計画だったが、予想より楽ができそうだ。

 今回の山行のために登山靴とシュラフを新調した。靴は既に3年が経過し、ゴアが劣化して防水はほとんど期待できない程度になっており、今の季節の湿った雪を長時間踏んでいては浸水するのが当然となっていた。今までの経験で私の山行ペースでは登山靴は持って3年であるのでしょうがない。買った靴は早速防水ワックスをたっぷりと塗りこんだ。シュラフも購入後15年くらいが経過し、買った当時ほどの断熱性能は無くなり残雪期では寒くて3シーズン用シュラフを併用していたので、ここいらで買い替えが適当と判断した。

大雪崩沢2号スノーシェッド手前の駐車スペース(出発時) 下山時は駐車スペースは賑わっていた

 連休初日の29日は前線が通過し日本海側ほど天候が悪く山に入るのはリスクが高すぎると判断して下界で休養。午後出発して関越道を北上、渋滞することなく小出ICで降りて大白川を目指す。うまい具合に新潟薮山ネットのメンバーが数日前に足沢山〜銀山平まで縦走し、雪の状態や国道の開通予定を教えてくれたため安心して進むことができた。昔は六十里越のトンネルから先は除雪はせず6月くらいまで完全開通しなかったのだが、いつの間にか全線通行可能にしてくれるようになっていた。大白川を過ぎて人家がなくなってもゲートは現れずちゃんと通れるようになっていたが、天候は悪化して雨が降り出した。まあ、これは予想の範囲内だが。既に真っ暗な時間で周囲の地形が見えず、取り付きに考えた場所を探すのが大変だった。地形図のスノーシェッドから場所を特定しようとしたのだが、地形図に書かれていない多数のシュノーシェッドが存在していて作戦失敗、足沢沿いの林道入口を目印にしようとしたが路側は除雪していなくて林道の形跡は発見できず。しかし林道分岐付近は直線が長いので場所を特定でき、そこから少し下がった大雪崩沢2号スノーシェッド手前の駐車スペースに車を置いた。先客が1台止まっていたが今頃主人は山の中だろうか。車の中でパッキングをしていると只見線のディーゼルカーがすぐ後ろを通過していった。夜なのでこんなに近くに線路があるのが分からなかった。

 まだ暗い4時に起床、空を見上げると薄い雲の向こうに月が出ており天気は回復したようだ。昨夜の雨でまだ薮が濡れているかもしれないので少しゆっくり目に準備をしていると、いつの間にか車が1台増えていることに気づいた。そして熊避けの鈴を鳴らしながら私の車が止まっている方向(峠に近いほう)とは逆側に遠ざかっていったようだ。まだ周囲は薄暗くルートファインディングは難しい時間帯なので経験者なのだろう。こちらは充分明るくなった5時近くに出発した。今シーズン初めての幕営装備が重かった。

駐車スペースから東に向かう 鉄橋が終わってすぐ斜面に取り付く

 線路に下りて鉄橋で末沢川を峠方面に渡り、短いスノーシェッドの手前の斜面を上り始める。予想通りまだこの標高では薮はなく、少し残った雪を繋いで標高を上げる。雪は非常に良く締まって登山靴ではエッジが切れるかどうかギリギリの硬さで傾斜がきついところでは滑ったら止められないくらいだったので、傾斜が緩いところだけ雪を使い、きついところは地面が出ているところを使った。いい傾斜でグングン高度を上げる。

上部は雪が少ない。西に向かう 西尾根上は踏跡あり

 右手(西側)の尾根の方が這い上がりやすそうな傾斜だったのでそちらに向かい、尾根に到着すると薄い踏跡と目印があった。ほお、これが噂の踏跡か。この調子なら薮漕ぎしなくてもいいかもしれないぞ。ただ、今の標高では背の高いブナが中心で薮はなく、問題は笹と背の低い潅木が出てきた頃に踏み跡があるかどうかだが。

標高542m肩で明瞭な道が合流 この状態は登山道と表現してもいい

 標高542m肩で傾斜が緩むと左(東)から尾根が合流し、驚いたことにそこには夏道と表現したくなるほどの明瞭な踏み跡があった。ということはこちらの尾根末端に登山口があるということか。帰りに確認してみよう。ここから650m肩までは雪は無いが非常にいい道が続いて、このまま毛猛山まで道があるのではなかろうかと思わせるのに充分であった。境界標石があるので登山とは無関係に人が入るのかもしれない。

650m肩直下で残雪登場 762m峰直下まで快適な残雪が続く

 650m肩直下で尾根が広がると残雪が出現、木が倒れてちょっと邪魔だがこの先はずっと残雪が続いてそれはそれで歩きやすい。しかし、この付近は雪で踏み跡が隠されており、しかも地形が広がって下りで正しい尾根入口を探すのがなかなか難しい。いいところに目印が1個ついていたので帰りに参考にしようと思ったのだが、帰りにその目印を発見することができず、ちょっとばかり迷ってしまった。

762m峰直下 762m峰の先の尾根
762m峰から見た太郎助山〜足沢山

 650m肩から762m峰直下までは残雪のブナの広い尾根が続いて快適な登りが続く。雪が硬いのでここでアイゼンを装着、ピッケルもあるので雪壁以外なら何でもござれの世界で、少々傾斜があっても直線的に登っていけた。762m峰直下は薮が出ていたので右から巻き気味にピークに出ると再び踏み跡と合流、しかし650m肩以下の明瞭さは無く潅木に侵食されている、というか、今までの道が良すぎたと言った方がいい。でもこの踏み跡があるのと無いのでは薮漕ぎの労力は大幅に違う。踏み跡があることで「薮漕ぎ」とは言えない程度まで労力が軽減される。多少は手が入っているようだがもう少し整備すれば本当の登山道になりそうだ。

尾根上は五葉松が立ち並ぶ 踏跡あるが潅木がうるさい
850m峰先の小規模崩壊地 文字が消えたプレート
振り返れば浅草岳

 しばらくは五葉松と潅木のなだらかな尾根が続く。潅木や五葉松の枝が引っかかって高さがある大ザックはちとうっとうしい場所で、ここは日帰りの軽装が得策だ。多少露岩が混じるが岩登りの要素が出てくるような場所は無く、展望を楽しめる場所を提供してくれる。850m峰を越えて少し崩れた鞍部を通過、この先は五葉松が消えるが潅木がさらにうっとうしくなる。尾根上の雪は消えうせて左側斜面の雪庇も崩壊して雪はかなり下まで後退していたので、尾根上の踏み跡を素直に歩くしかない。

まだ残雪は先
このコブの先から残雪が使えた ようやく残雪にありつく。この先は快適
登ってきた尾根

 早く雪が出てこないかなと歩き続けると標高850mを越えた辺りで右手に雪棚が出てくるようになるが、結構ズタズタでなかなか使えないが、ようやく先まで続くようになってそちらに乗り換えると潅木の抵抗がなくなり快適快適! でもたまにクラックが入って尾根に少しだけ戻って再び雪庇に戻ったりもする必要があった。この辺はシーズン中は毎日様子が変わるだろうから、その時々で歩きやすいルートを適当に選択する必要がある。

足沢山を目指す 振り返る

 足沢山への最後の登りは広く快適な雪面が続き、これぞ残雪期!と感じさせる風景だ。快晴の青空に白銀の山。今日は麦藁帽子を被ってきて正解だった。この風体は他の登山者から見ればかなり変だろうが、この日差しを避けるには麦藁帽子は最適なのだ。これがないと顔だけでなくTシャツだと首周りもひどい日焼けをしてしまう。

足沢山山頂には先行する2人が見えた 足沢山山頂
足沢山から見た展望(クリックで拡大)

 山頂に1名、そしてもうすぐ山頂に達しようとしている1名が見えている。山頂の1名が昨夜からあった車の主だろうか。こっちも山頂に早く達したいところだが、いかんせん重い大ザックなのでゆっくりゆっくりと登っていくしかない。最後の一登りで最高地点に到着、雪庇の高まりの上で、ここが今の季節の足沢山山頂だ。三角点は雪の下で確認不能だが雪で高い分だけ展望はいい。これから向かう太郎助山はでかく高く、その右に百字が岳、そして険しそうな稜線で繋がり鋭く立ち上がった桧岳がこれまた迫力満点だ。振り返れば真っ白な守門岳に浅草岳、両者間の奥に見える山は何なのか分からないが、帰ってからカシミールで写真判定するか。東には村杉半島の山々だが山名までは覚えていない。その鞍部から見えているピークは会津朝日岳だろうとは予想が付いた。

 2名いたはずが1名は先行したようで姿は無く、1名が南側に少し下がった平坦地で休憩していた。その男性(私と同じくらいの年齢か?)話を聞くとこの人が昨夜からの車の主で今朝一番で上がってきたらしい。一応日帰り予定だがツェルトも持ってきて幕営準備もしてあるという。まあ、毛猛山だけなら日帰りもありだからな。ここで私も先行し、先人の足跡を追いかける。

太郎助山へは稜線東を巻く 結構残雪は荒れている
これが一番でかいクレバス 遠くから見たクレバス。真中の「橋」を渡った

 足跡は雪が落ちて薮が出ている稜線に向かわず、まだべったりと雪が付いている東斜面を巻くようについていた。なるほど、合理的な選択だろう。ブロックが崩壊したところから先で本格的に稜線から離れて巻きに入る。1084m峰先の1050m鞍部へとこのまま水平に行くのが得策と考え、もっと高巻きしている先人の足跡を離れて水平移動を続行する。しかし高巻きしているのにはちゃんと理由があって、所々に深くて広いクレバスが口をあけており、これは乗り越えることができないので迂回するしかない。ところがうまい具合にクレバスの途中に細いながらブリッジ状に雪が繋がった場所を発見し、そのまま水平移動を続けられた。まあ、こんな芸当ができるのもあと数日だろうか。鞍部近くで先人のトレースと合流し、稜線に乗った。

1箇所雪庇が崩壊しており少しだけ稜線上を歩く 再び残雪にありつく

 僅かに稜線上の潅木藪中の踏跡を辿ると稜線東側に雪が現れ、以降は残雪帯を快適に歩けた。稜線上には踏跡があって完全な藪漕ぎにはならないが、潅木の枝が突き出た踏跡よりも何もない雪棚の上の方が断然気持ちいいし歩きやすい。

藪区間が近づいてくる
藪区間手前でアイゼンを脱ぐ 明瞭な踏跡があり藪漕ぎというほどではない

 標高1190mピークを越えた先の平坦地で残雪が切れて、その先はしばらく藪が出た尾根を登ることになるので、平坦地でアイゼンを脱ぐことにする。ここで先行者の単独男性がが休憩中で、ここから私が先頭となる。雪が無ければ踏跡を行くしかなく、明瞭な踏跡を辿って尾根を登っていく。思ったよりも「根曲がり木」は少なく、潅木藪に突っ込むこともなく順調に高度を上げていく。ここは傾斜がそれなりにあるので真っ先に雪が解けてしまうのだろう。残雪が多い今年で雪が無いのだからほぼ毎年大型連休には雪は無くなっていると思われ、踏跡は明瞭だった。

再び残雪に乗る 振り返ると足沢山が遠い
百字ガ岳は接近してきた

 少し傾斜が緩む標高1260m付近で残雪が現れ、再び快適な雪上歩きの再開だ。雪は緩んできているのでアイゼンの必要はないかもしれないが、目の前の登りは結構急なのでアイゼンを装着して登り始めた。この先は短区間だけ藪が出てしまっている部分はあるが、大半は雪棚が使えて地面を踏むことなく高度を上げていく。

太郎助山直下。数日前のトレースが残っている 太郎助山山頂。背景は毛猛山と中岳
太郎助山からのパノラマ展望写真(クリックで拡大)

 太郎助山手前の平坦地を過ぎて最後の一登りで太郎助山山頂に到着。高い木は無く一面の雪原で360度のパノラマが広がる。ここへ来てようやく最終目的地の一つである毛猛山が姿を見せた。この山塊の盟主に違わぬ威風堂々の姿だ。GPSの電源を入れて距離を確認すると約2kmで、百字ガ岳まで900m弱と出た。見た感じでは藪が出ているところはほとんど無く、この先も快適な残雪歩きが楽しめそうだ。

 ここで少々休憩して、飯を食いながら後続の男性がやってくるのを待った。山頂で少し話をして再び私が先行、男性は12時に毛猛山にたどり着かない場合は諦めて撤退するとのことだが、まだ時刻は10時くらいなので体力さえあれば大丈夫ではなかろうか。雪質は最高とは言えないが地獄のラッセルでもないので、私が足跡を付けておけば少しは楽になるだろう。

百字ガ岳に向かう 太郎助山を振り返る
百字ガ岳接近。山頂直下に岩壁が見える 岩壁は踏跡があり簡単に登れた

 太郎助山から百字ガ岳間はずっと残雪が続いて快適な展望の尾根歩きが楽しめる場所だった。右手の桧岳は徐々に近づいてくるが恐ろしいほどにそそり立った姿で本当に登れるのか心配になるくらいだ。百字ガ岳直下ではちょっとした岩壁が見えており登れるのか不安になったが、現場に接近すると簡単に登れるルートにちゃんと踏跡があって危険無く山頂にたどり着いた。ここまで来ると毛猛山も桧岳も同程度の近さだ。

百字ガ岳山頂。背景は毛猛山 百字ガ岳から見た桧岳。山頂直下以外は問題無さそう

 今夜の宿はこの山頂周辺を予定しており、幕営に良さそうな場所を物色すると山頂南側に僅かに下った場所に微小鞍部があり、北風は山頂がブロックしてくれるし西側の稜線より少しだけ低い場所なので西風も大丈夫だろう。夜間は北寄りの強風が吹き荒れたので場所の選択はバッチリだった。ここで大ザックをデポして小さなアタックザックに防寒具だけ入れてまずは毛猛山を往復してしまおう。この天気なら雨具は持っていかなくていいだろう。いきなり荷物が軽くなって足も一気に軽くなりペースアップだ。

鞍部から中岳に登り返す。黒い頭が1410m峰 1410m峰を越えて中岳を見る
中岳から見た毛猛山 中岳から見た百字ガ岳〜太郎助山

 残雪の尾根を下り、1410mピーク手前で雪が切れて少しだけ藪の中に潜るが踏跡は明瞭だし、潅木藪はさほどうるさくなくて障害とは言えない程度で済んだ。中岳山頂に立つと毛猛山はもう目の前だが、もったいないことに鞍部まで再び下らなければならない。山頂のすぐ先にも1箇所だけ稜線上は藪が出てしまった区間があり、西側を適当に巻いて再び稜線に戻って鞍部に到着。

中岳から毛猛山に向かう 鞍部から見上げる毛猛山。稜線上はクラック多数

 さて、毛猛山の最後の登りであるが、素直に尾根上を行こうと思ったが尾根直上から東側直下にかけて多数のクラックが走っているのが見え、まさか雪崩れるところまではいかないだろうが、隠れたクレバスに落ちて脱出に苦労しそうな気配が漂い、そこに突入するのはいかにも危険と判断、稜線東は傾斜が急なので西側を巻くことにする。それなりに傾斜はありそうだが壁とまではいかないのでどうにかなるだろう。なお、通常はどのようにルート取りするのかは私は知らない。雪が落ちていれば藪だろうが尾根上を行くのだろうが。

中岳を振り返る 埋もれた潅木の西側をトラバース気味に登る

 鞍部から西側斜面をトラバース気味に斜めに登っていくと、最初は一面の雪原だったが徐々に雪に埋もれて横になった矮小なブナが目立つようになる。これが無雪ならば「根曲がり木」の横断の最悪パターンであろうが、今は隙間が充分にあって適当に歩きやすいところを拾って進んでいく。傾斜は遠めに見たほどではなくアイゼンもピッケルも使わずに普通に歩ける程度だった。たぶんコケても止まれると思う。

 標高が上がると左手上部に見えている稜線は雪が切れて笹薮に覆われた状態になり、トラバースを続ける。山頂が近づくと潅木から笹に切り替わってくるが、これもほとんど雪に埋もれて障害にならない。最後はほぼ雪が消えて腰ほどの高さの笹となるが、激藪の密度ではないし距離にして10mほどで楽々突破し稜線に飛び出した。

稜線に出た 地面が出た毛猛山山頂。背景は桧岳
毛猛山から見たパノラマ展望(クリックで拡大)

 稜線の東側はまだたっぷりの残雪で覆われ、ルートをそちらに移して緩やかな尾根を上がっていく。山頂近くでは雪が消えて笹の中を歩くが、ここは明瞭な踏跡ができていた。ということは、登山口(正式な道があるわけではないので登山口というのも変だが)から毛猛山山頂まで、大型連休近くの例年並みの残雪量で雪がない場所にはそれなりの踏跡ができているのだろう。もちろん、潅木藪がひどいところは簡単には踏跡にはならないと思うが、たぶん全く踏跡が無いよりはずっとマシだろう。あと10年くらい経過するともっと踏跡が鮮明になっているかもしれない。

 最後は地面が出た山頂に到着した。まさか毛猛山で地面を見るとは思ってもみなかった。山頂にはかなり傾いた三角点が鎮座しており、風雪の厳しさを物語っているのか、それとも訪問者の多さか、はたまた手抜き工事だったのか。南には白鳥山から未丈が岳の真っ白な稜線が延び、特に未丈が岳の姿が美しい。越後三山は真っ白け、左手の村杉半島から丸山岳、会津駒も見えていた。あまり空気の透明度は良くなくて近場の山しか見えなかったが満足いく展望だった。

 天候は徐々に悪化してきており、百字ガ岳出発時は一面の青空だったのが、今は頭上までは青い空だが北側は一面灰色の雲に覆われていた。まさかこれほど急激に天候が悪化するとは考えていなかったのでゴアは百字ガ岳にデポしたままで、デポしたザックはザックカバーもかけずに適当に転がしたままで、途中で雪に降られるのは困る。もう少し毛猛山に長居したかったが10分ほどで撤退とした。

百字ガ岳山頂南直下にテントを設営 百字ガ岳から見た桧岳山頂付近
中岳から見た百字ガ岳〜桧岳の稜線

 下山開始後数分、稜線を離れて笹帯を突破したところで単独男性とすれ違った。百字ガ岳に戻った時点ではまだ天気はどうにか持っていたが、周囲は暗い雲に覆われていた。いつ雨か雪が降ってくるのか分からないので急いでテントを設営し始めると雪が降り始めた。いいタイミングだったらしい。13時前に男性が毛猛山から戻ってきた時にも雪が降ったままだったが、まだガスってはいなくて展望がありルートは見えるので下山に問題は無いだろう。

 私のほうはこの天気では桧岳にアタックするか微妙な情勢だ。これより天候が悪化するのかしないのかはっきりしないし、今は昼時で気温は高めで雪が腐って苦労するのは間違いない。たぶん今日のように明日朝には寒気の影響が無くなって天候が回復し、快晴の中で気温が下がって締まった雪の上を快適に歩ける公算が高いと判断し、今日の行動を打ち切った。たまに日が差すこともあるが暗くなって雪が降ることもあり。寒気の影響を受けて天候が不安定だ。やがて後続の男性もやってきて、雪が舞っているが毛猛山に向かっていった。この時間ではこの人は明るいうちに下山は無理かなぁ。体力的にもきつそうだ。まあ、ツェルトを持ってきているとのことなので、いざとなればどこでも幕営に入れるのでよほど悪天にならない限りは大丈夫だろう。そもそも毛猛山に挑戦する人は、それなりのレベルの人しか入らないだろうから。午後3時近くになって男性は戻ってきて、ストックをデポしたという足沢山を目標にして下っていった。

 テントの中ではやることは無く、昼寝をして夕方から酒盛りを楽しんで寝た。夜は寒くなるかと思ったら気温は0℃までしか下がらず、予想外に暖かかった。しかし、真夜中になって風が強まり、雪(霰)がテントを叩く音が大きくなってきて天候は大荒れとなった。北寄りの風らしく百字ガ岳山頂が盾となってテントに風が直接吹き付けることはなかったが、時々テントが大きく揺れることはあった。ラジオの天気予報では中越は晴れのち曇りと告げており、当初は寒気の影響で雷雨の可能性があると言っていたのも午後以降はそのことは言わなくなっていたのに・・・・。

 予想に反して翌朝5時になっても風が止むことは無く、テントを叩く雪の音も続いていた。外を見ると雲の中に入っているようでガスって周囲は見えない。これでは稜線の先の様子が見えず、桧岳にアタックするのはリスクが高すぎる。1,2時間待って天候が回復しなければ今回は撤退しようとテントで待機したが7時になっても雪は止まず撤退を決定し、少し雪が収まってきてからゴアを着て外に出てテントを撤収した。風も強く一人で畳むのに手間取ったが、その間に急激に天候は回復し、ガスは切れて桧岳山頂までの稜線が見えるようになり、雪もちらつく程度になっていた。少し悩む天気だが、稜線の先の様子が見えれば最も安全なルートの判断も可能となりリスクは大幅に低下するだろうし、またここまで来るのは時間も体力も必要であり、ダメ元で挑戦した方がいいと決心、山頂に立てるかどうか不安はあるがとにかく行ってみることにした。

天候が回復し桧岳に向かう 快適な雪稜が続く
1350m峰へと登る 1350m峰直下から見た百字ガ岳

 アイゼンを装着していると雪がほとんど止んでくれて、せっかく付けたアイゼンを外してゴアのズボンを脱ぎ、再びアイゼンを付けて出発。尾根の取り付きは山頂ではなく僅かに北側に下ったところからだ。1mほどの藪を突き抜けると雪面の広い尾根に出て、あとはひたすら稜線を辿る。足沢山から桧岳の稜線を見ると恐ろしいほど痩せているような印象を受けるが、百字ガ岳から見るとアップダウンはあるが、途中にさほど危険そうな場所は見受けられない。ただし山頂直下の10〜20mほどがかなりの傾斜のように見え、ここはピッケルで確保が必要かもしれない。

このコブから先は稜線上の潅木藪漕ぎ 痩せた藪尾根を下る。踏跡はない
途中で振り返る 写真ではわからないがかなり急

 1350m峰のてっぺんは残雪を利用して僅かに南を巻いたが、標高1340〜1300mくらいまでは地図で読めるより尾根が痩せて雪が完全に落ち切ってしまい、ぼうぼうの潅木藪が露出していた。地形図ではここには破線があるが現実にはそんなものは形跡すら感じることができなかった。尾根が痩せているため迂回は不可能で、雪が解けて濡れた潅木藪を掻き分けながら下っていくが、これを登り返すとなると憂鬱とならざるを得ない。北側に雪渓が残っていたがえらい急傾斜で滑ったら絶対に止められず、しかも数100mはその傾斜と雪が残っていて落ちたらタダでは済まない状況だったので利用することができず、正直に尾根上を行った。尾根が広がる標高1300m以下の緩斜面地帯にはたぷりの残雪が見えているのでそこまでの我慢だが、最後の標高差20mくらいは地形図の表記とは異なってかなりの急な下りで雪が付いていたらヤバくて下れないような場所だった。まあ、こんな急な尾根から真っ先に雪が落ちてしまうので残雪期ならばいつも雪は無いだろうけど。

藪尾根が終わる 藪尾根を見上げる。帰りは左の雪渓を登った

 ようやく平坦地に下りて藪から開放され、快適な残雪雪稜歩きに切り替わる。思ったよりも気温は高めで雪の締まりはいいとは言えないが、ガチガチに固まっているよりこの方が山頂直下の雪壁を登るには恐怖感を感じずに済むだろう。今の雪の硬さならステップは深く切れ、しかも崩れない程度の強度は期待できそうだ。

少し離れて藪尾根を見る。南斜面の雪は落ちている 1228m峰
1228m峰から見た桧岳 1260m峰は巻いてしまった
1260m峰西から見た桧岳 1300m付近で雪庇をよじ登る。右の藪を登ってもよし

 1288m峰、1260m峰は稜線を正直に歩き、1290m峰へは少し急な雪面を歩くが恐怖心を感じるほどのことはなく帰りも前を向いて普通に下れる程度の斜度だった。1300m付近で高さ数mの雪庇を南からよじ登る場所があったが、垂直の壁ではなかったので正面突破しようと思えば可能だったが、雪庇右端が雪が崩れて地面が出ていたため、地面と雪の境界を登って稜線上に再び出た。もうここまで来れば山頂は手が届きそうな距離だった。

1300m付近を越えると再びなだらかに 登ってきた稜線を振り返る
もうすぐ山頂 最後の登り

 なだらかで快適な雪稜線を歩いて山頂直下にさしかかり、最後で唯一の難関の急斜面が登場。稜線直上から南は崩壊して垂直の壁で登ることはできないし、縁に近づきすぎると雪が崩壊して一緒に落下するのは必定であり、稜線より北側をトラバース気味に登るしかない。しかしその北斜面の方がずっと傾斜がきつくて落ちれば谷底まで滑落するだろう。しかしその危険地帯は距離にして10mほどで、過去に登ってきた雪壁と比較しても特にヤバいものではなく、アイゼンとピッケルがあって時間をかけて1歩1歩確実に登っていけばさほど難しいわけでもない。数年前の私だったら行くか戻るか真剣に悩む場面だろうが(先人のトレースがあれば行くと思うが)、今の私では撤退はあり得ない程度の傾斜だ。毎年の残雪期ではさほどヤバい場所には登っていないが、それでも経験を積めば危険を感じる限界点が上がっていくらしい。

写真では分からないがかなりの傾斜。カモシカの足跡あり 桧岳山頂。背景は毛猛山

 数日前の足跡は完全に消えて、代わりにカモシカの足跡が残っていたのでそれを参考にする。少し雪は緩めだが足元の雪が崩れ落ちることは無く、ピッケルをシャフトいっぱいまで打ち込みつつアイゼンでステップを切りながらゆっくりと登っていく。傾斜が緩んで安全地帯に入ればもう桧岳山頂だ。

標識代わり?のペットボトル 桧岳から見た黒又川第2ダム湖
桧岳から見たパノラマ展望(クリックで拡大)

 山頂は高い木は無く360度のパノラマ展望が楽しめる場所だった。この展望を楽しめる人間は年間どのくらいだろうか。毛猛山は近年はそこそこ人数が入っているようだが桧岳の方は分からない。山頂標識は皆無で僅かに目印がある程度で、その他にはペットボトルが枝に刺さっているだけだった。僭越ではあるが今回初めて赤テープを残した。

山頂直下を慎重に下る 最初にすれ違った男性
山頂直下をノーピッケルで登る男性 男性が藪を回避して下ったとんでもない傾斜の雪渓
2人目の男性 百字ガ岳は近い
中岳手前を登るパーティー

 まだほとんど疲労を感じていなかったので短時間で山頂を後にして下山にかかった。まだ連休本番はこれからで、体力はできるだけ温存した方が得策で、早めに下界に下って体を休めようと思う。下山を開始すると予想だにしなかったことだが単独男性がこちらに向かって上がってくる姿が目に入った。1290m峰を過ぎたところですれ違ったが、ノーアイゼンの長靴にピッケル無しの出で立ちで、いかにも残雪期の山に手馴れた風貌と見た。4月に毛猛山に登ったばかりで今日は桧岳日帰りだというからやっぱりかなりの経験者だ。たぶん新潟県内のろくでもない藪山は相当数登っているだろう。男性の話によると5,6人パーディーが入っており(たぶん途中で追い越したのだろう)、ちょうど今は太郎助山のてっぺんに見えるという。なるほど、数人の姿を見ることができた。これ以上は桧岳に登る人はいないだろうと思ったら1350m峰への藪の登り返しでもう1人の単独男性と出合った。こちらも長靴でストックを持っていた。

 この1350m峰への登り返しでは、最初に出合った男性のトレースに従って稜線の激藪を漕がずに稜線北側の急な雪渓を登り返した。先述したがこれがまたえらい傾斜で、たとえピッケルで滑落姿勢をとっても絶対に止まらない傾斜と硬い雪質で絶対に滑ってはいけない場面なのだが、あの男性はノーアイゼンにノーピッケル、ノーストックで前向きに下っているではないか!! 雪面に残っているのは僅かに引っかかったかかとの跡だけで、ほとんどカモシカ並みの足跡だった。私には絶対真似できない所業で、この人だったら残雪期の北ア硫黄尾根でも長靴で縦走できるのではなかろうか。私がこのレベルに到達するのはいつのことだろうか。

太郎助山を下る 藪区間を下っている最中
内桧岳 足沢山で休む3人パーティー
足沢山から見た太郎助山〜桧岳
残雪帯から潅木尾根に入る 最後にすれ違った2人パーティー

 百字ガ岳に戻って大ザックを背負って下山開始。途中で誰かとすれ違うかと思ったが足沢山山頂まで人の姿はなかった。ということは、この日の日帰りは桧岳往復の単独男性2人と太郎助山山頂に見た5,6人パーティーだけのようだ。時間的に今から毛猛山日帰りは無理だろう。足沢山では山頂南側の少し低くなった平坦地に1,2人用テントがあったが、これは単独男性のどちらかのものではなかろうか。ここには3人パーティーが休憩中で、今日はどこまで行くのだろうか。少し休憩してから下山を継続、今度は残雪が切れて潅木が邪魔な尾根上で2人パーティーが上がってきた。これで本日のお客は全てだろう。

イワウチワ? 762m峰
標高630mで少し迷ったが無事尾根を発見 542m肩で踏跡に従って右に下る
途中で踏跡が消え、あとは適当に斜面を下る 線路に到着

 762m峰を越えて再び残雪にありついて半分すべりながら快調に下るが、標高630mで尾根がバラけるところで左に分岐する尾根の入口が見えず、登りで見かけたはずの目印を見つけることができずに少しウロウロしてしまった。先人の足跡が雪の上に残っているはずだが、標高が高いところよりもこの辺の方がかえって雪が締まっていて浅い足跡しか残らず、気温が高いこの時期ではすぐに足跡は消えてしまうようだ。進路を左に振って慎重に周囲の地形を見ながらゆっくり下っていくと雪が消え、明瞭な道がある尾根上に出た。あ〜、よかったぁ。542m肩で踏跡に従って右(北東)に分岐する尾根を下っていく。相変わらず登山道並みの明瞭な道が続いたが、麓まで標高差数10mという場所でぷっつりと道が消えていた。この辺は残雪が見られたので、もしかしたら尾根上を外れて北斜面をジグザグに下って行くのかもしれないが、詳細は不明だ。ただ、ここまで来れば線路は見えるし藪は無いし斜面には雪が残って靴を滑らせて楽々下れるので道がなくても全く支障は無い。本数が少ない只見線の列車が小出方面に走って行った。只見線は単線なので、これでしばらく列車は来ないはずで安心して鉄橋を利用できる。実は只見線の鉄橋を歩いているときに列車がやってきたらどうしようかと心配していたのだが、実にいいタイミングだった。今後入る人は事前にダイヤを確認した方がいいだろう。

 昨日の朝は私を含めて車は3台だったが今日は??台で少し賑わっていた。まだまだ連休中は登る人が何人もいるだろうな。天候には少し恵まれなかったが日中はいい天気で、念願の毛猛山だけでなくオプションの桧岳もゲットでき、連休当初からいい山行だった。

 

2000m未満山行記録リストに戻る

 

ホームページトップに戻る